Active Directoryの冗長化

目次

Active Directoryの冗長化とは?

Active Directoryの冗長化とは、企業のネットワーク環境でユーザーアカウントやコンピューター情報を管理する重要なシステムであるActive Directory(AD)が万一停止しても業務が継続できるように、複数のサーバーで同じ機能を提供できる環境を構築することです。

ADの冗長化
言わば「保険」のようなもので、一台のサーバーが故障したり、メンテナンスで停止したりしても、別のサーバーがその役割を引き継いでシステム全体が動き続けられるようにする仕組みです。

例えば、社員がパソコンにログインする時、通常は特定のドメインコントローラー(Active Directoryを動かすサーバー)に対して認証を行いますが、そのサーバーが使えなくなった場合でも別のドメインコントローラーが認証処理を担当できるため、社員の業務に影響が出ません。

冗長化をしていないと、サーバー障害時に社員がログインできなくなったり、グループポリシーが適用されなくなったりと、業務停止につながる重大な問題が発生する可能性があります。

ADの障害時
Active Directoryの冗長化は、最低でも2台以上のドメインコントローラーを設置し、それらの間でデータを常に同期させることで実現します。

Active Directoryレプリケーションの仕組み

では、Active Directoryの冗長化に必要な同期(レプリケーション)について学んでいきましょう。

Active Directoryレプリケーションとは、複数のドメインコントローラー間でディレクトリデータを同期させる仕組みです。

ADの同期
これはちょうど複数の図書館が蔵書データベースを共有しているようなもので、一つの図書館で新しい本の登録や情報変更があった場合、その変更が他のすべての図書館にも伝わるようにする仕組みと考えてください。

具体的には、あるドメインコントローラーでユーザーアカウントの追加やパスワード変更などの変更が発生すると、その変更情報だけが「更新順序番号」という固有の識別子と共に他のドメインコントローラーへと配信されます。

この時、すべてのデータではなく変更された部分だけを送ることで、ネットワーク帯域を効率的に使用します。

レプリケーションは特定の間隔で自動的に行われ、サイト(拠点)内であれば15秒以内サイト間であれば設定された間隔(通常は数時間ごと)で実行されます。

また、重要な変更はより迅速に反映される「緊急レプリケーション」の仕組みもあります。

レプリケーションは「マルチマスター」方式を採用しており、任意のドメインコントローラーで変更を行えるため、特定のサーバーに負荷が集中することを防ぎます。

もし二つのドメインコントローラーで同じオブジェクトが同時に変更された場合は、「最後の更新が優先」というルールで競合が解決されます。
ポイント! 複数のADで更新が発生した場合は、「最後の更新」が優先されるよ!

負荷分散の仕組み

ADが「マルチマスター」方式を採用していることで、利用者は同期しているどのADを利用してもOKになります。

せっかく複数のADがあるならば、リソースは有効活用したいですよね。ということで負荷分散です。

Active Directoryの負荷分散とは、多数のクライアントからの認証要求やディレクトリ検索などの処理を複数のドメインコントローラーに分散させることで、システム全体のパフォーマンスを向上させる仕組みです。

ADの負荷分散
これは大きなショッピングモールでレジが一つだけだと長蛇の列ができてしまうため、複数のレジを設置して顧客を分散させるようなものです。

Active Directoryでは負荷分散が自動的に行われる設計になっており、クライアントがドメインコントローラーを探す際に「DNS(Domain Name System)」の名前解決を利用します。

クライアントがログイン処理などでドメインコントローラーを必要とする場合、まずDNSサーバーに問い合わせを行い、利用可能なドメインコントローラーのリストを取得します。

ADのDNSとの連携
そして通常はネットワーク的に近い(応答速度が速い)ドメインコントローラーを自動的に選択します。

また、特定のドメインコントローラーが多くのクライアントからのリクエストで過負荷になった場合や応答しなくなった場合、クライアントは自動的に別のドメインコントローラーに切り替えることができます。

大規模な組織では、地理的に分散した拠点ごとにドメインコントローラーを配置することで、WAN回線の負荷を減らしローカルネットワーク内で認証処理を完結させ、応答速度を向上させることもできます。

これら一連の負荷分散機能により、ユーザー数が増えても安定したサービスを提供することができるのです。

クライアント側の冗長化/負荷分散利用

ADのレプリケーションにより冗長化や負荷分散の構成を利用するために、利用者側でも重要となる設定があります。

それがDNSの設定です。
Active Directory環境での冗長化を最大限に活用するためには、DNSの冗長化設定が非常に重要です。

通常、Active DirectoryではドメインコントローラーにDNSサーバーの機能も同時にインストールされており、これによりActive Directoryとそのサービスを検出するために必要なDNSレコードが自動的に管理されます。

クライアントがActive Directoryサービスを利用するためには、このDNSサーバーを参照できる必要がありますが、もし参照しているDNSサーバーが停止してしまうと、ユーザーはドメインコントローラーを見つけられなくなり、ログインや各種サービスの利用ができなくなってしまいます。

そのため、クライアントコンピューターには複数のDNSサーバーのアドレスが設定される必要があります。

DNS設定
Windows OSには、プライマリDNSサーバーが応答しない場合、自動的にセカンダリDNSサーバーへの問い合わせに切り替える機能が標準で搭載されているため、ユーザーが手動で設定を切り替える必要はありません。

この自動切り替え機能により、例えばメンテナンスや障害でDNSサーバーの一台が停止しても、クライアントは別のDNSサーバーを使用してActive Directoryサービスを継続して利用できるようになります。

ただし、DNSサーバーの切り替えには数秒から場合によっては数十秒の時間がかかることもあるため、プライマリDNSサーバーがダウンした直後は一時的にネットワークの応答性に影響が出ることがある点は理解しておくべきでしょう。

この仕組みを前提に、DHCPサーバー自体も冗長構成にすることで、Active Directory環境の可用性をさらに高めることができます。

まとめ

Active Directoryの冗長化は、組織のITインフラの信頼性を高め、業務の継続性を守るために欠かせない仕組みです。

本記事を通じて、レプリケーションの動作や負荷分散の方法を理解することで、単なる技術の知識に留まらず、より実践的な運用につなげることができます。

適切な冗長化は、障害発生時の影響を抑え、ユーザーの認証やアクセス制御を途切れることなく維持します。

負荷分散を組み合わせることで、システムのパフォーマンスを向上させ、ネットワークの混雑を軽減することも可能です。

特に複数の拠点を持つ環境では、最適なレプリケーション戦略を設計することで、効率的にデータを同期しつつ、帯域の使用を最適化できます。

また、冗長化はセキュリティ面でも重要な役割を果たします。

適切な設計を行うことで、一部のドメインコントローラーが障害や攻撃の影響を受けても、別のコントローラーがバックアップとして機能し、システム全体の安全性を確保できます。

さらに、クライアント側での冗長化や負荷分散の理解が深まれば、より安定した認証環境を構築でき、ユーザーの利便性を向上させることができます。

Active Directoryの冗長化を適切に実装することで、組織のIT基盤はより強固なものになり、障害やパフォーマンス低下に強い環境を実現できます。

知識を活用し、自社のインフラに合わせた最適な設計を行うことで、可用性と効率性を両立した運用を目指していきましょう。