ポリシー管理(Group Policy)

目次

Group Policyとは?

グループポリシー(Group Policy)とは、Microsoftが提供するActive Directory環境においてコンピュータやユーザー設定を一元管理するための技術です。

組織内のWindowsオペレーティングシステムの動作や設定を効率的に制御することができ、管理者は複数のマシンやユーザーに対して一貫したポリシーを適用することが可能となります。

GPOの適用
GPO(Group Policy Object)と呼ばれるオブジェクトを作成・編集し、Active Directoryドメイン内の特定のOU(組織単位)、サイト、ドメインにリンクすることで管理対象のコンピュータやユーザーに適用されます。

セキュリティ設定の強化、デスクトップ環境の標準化、ソフトウェアの展開、ネットワーク設定の管理など幅広い機能を持ち、管理者の作業負担を大幅に軽減します。

また、ポリシー設定はActive Directoryのレプリケーション機能により複数のドメインコントローラー間で同期されるため、大規模な環境でも整合性のある管理が実現できます。

AD間の同期
グループポリシーは階層構造を持ち、複数のレベルで設定を適用する場合は特定の優先順位(LSDOU:ローカル、サイト、ドメイン、OUの順)に従って最終的な設定が決定されます。

ポイント! オブジェクトはOUやドメイン、ローカルグループポリシーなど複数のグループポリシーが適用される場合が多いです。
そんな時に、どのポリシーが優先されるのかを示しているのが、LSDOUです!
ローカル、サイト、ドメイン、OUの順で上書き(右側にあるものが優先度高)されるので覚えておきましょう!

Windowsのバージョンアップに合わせて機能も拡張されており、現代の企業IT環境において欠かせない管理ツールとなっています。

Group Policyの基本構成

グループポリシーの基本構成は、GPO(Group Policy Object)を中心とした階層的な設定構造を持っています。

GPOはActive Directory内に格納される設定の集合体であり、各GPOは一意のGUIDで識別されます。

GUID
GPOは主に「コンピュータの構成」と「ユーザーの構成」という二つの主要カテゴリに分かれています。

これらはさらに「ポリシー」と「基本設定」のサブカテゴリに分類され、「ソフトウェア設定」「Windows設定」「管理用テンプレート」という三つの主要な設定グループを含んでいます。

GPOの構成
管理用テンプレートはADMXファイル(旧バージョンではADM)で定義され、レジストリベースの設定を提供します。

GPOを管理するためのプライマリツールとして「グループポリシー管理コンソール(GPMC)」があり、グループポリシーオブジェクトの作成、編集、リンク、バックアップなどの操作を集中管理できます。

GPOはActive Directoryの様々なスコープ(サイト、ドメイン、組織単位)にリンクでき、複数のOUに同一のGPOをリンクすることも可能です。

各GPOには「有効」「無効」「構成なし」の三つの状態があり、明示的に「有効」または「無効」にすることで設定を強制するか、「構成なし」にして下位レベルの設定を許可することができます。

GPOの設定
例えば、OUで「構成無し」、ドメインで「有効」、サイトで「構成無し」、ローカルで「無効」とした場合、優先順位として「LSDOU」の考えにのっとって処理されていきます。

OUは「構成なし」なので無視され、ドメインの「有効」が採用されます。

サイトやローカルの設定は、「LSDOU」の優先順位に従って、無視されます。

Group Policyの代表的な使用例

グループポリシーの代表的な使用例は、企業のセキュリティ強化からユーザー体験の標準化まで多岐にわたります。

セキュリティ面では、パスワードポリシーの適用が最も一般的で、パスワードの最小文字数、複雑さの要件、有効期限などを組織全体に統一して強制できます。

パスワードポリシー
また、アクセス制御の一環として、USBドライブなどのリムーバブルメディアの使用制限やコントロールパネルの特定項目へのアクセス制限を実装できるため、データ漏洩防止に貢献します。

USB禁止
エンドポイントセキュリティとして、Windowsファイアウォールの設定やウイルス対策ソフトウェアの構成管理も一元化できます。

デスクトップ環境の標準化では、企業ロゴを含む壁紙の統一、スタートメニューやタスクバーのカスタマイズ、特定のショートカットの配置などを実現し、一貫したブランドイメージと操作性を提供します。

ソフトウェア管理においては、グループポリシーソフトウェアインストール(GPSI)を使用した社内アプリケーションの自動配布や更新、不要なソフトウェアの実行制限が可能です。

ネットワーク設定では、プロキシサーバー設定やネットワークドライブの自動マッピングを一元管理できるため、ユーザーが手動で設定する必要がなくなります。

ユーザー体験向上の例として、フォルダリダイレクトやオフライン設定によりユーザーのデータをサーバーに保存しながらもキャッシュを利用した快適な作業環境を提供できます。

また、運用管理の効率化として、スクリプトの実行(ログオン/ログオフ時、起動/シャットダウン時)や、イベントログの集中管理設定なども広く活用されています。

Group Policyの適用プロセス

グループポリシーの適用プロセスは、クライアントコンピュータがドメインにログオンする際に自動的に開始される一連の処理手順です。

まず、ユーザーがログオンするか、コンピュータが起動すると、クライアントはドメインコントローラーに接続し、適用すべきグループポリシーの情報を取得します。

GPO確認のタイミング
この処理はグループポリシークライアント(gpsvc.dll)によって管理され、ネットワーク上のドメインコントローラーから適用対象となるGPOのリストを受け取ります。

次にクライアントは、LSDOU(ローカル、サイト、ドメイン、組織単位)の優先順位に基づいてポリシーを処理します。

この際、リンクされたGPOのセキュリティフィルタリングやWMIフィルターの条件を評価し、クライアントに適用すべきポリシーを特定します。

GPOには「コンピュータの構成」と「ユーザーの構成」の二つの主要セクションがあり、コンピュータの構成はシステム起動時に、ユーザーの構成はユーザーログオン時に適用されます。

GPO適用のタイミング
通常のポリシー更新は90分間隔(ドメインコントローラーは5分間隔)でバックグラウンドで実行され、管理者は「gpupdate /force」コマンドを使用して即時更新を強制することもできます。

Group Policyの設計ベストプラクティス

グループポリシーの設計ベストプラクティスは、効率的で管理しやすい環境を構築するための指針となります。

まず最も重要なのは、目的ごとに個別のGPOを作成する原則です。

機能別(セキュリティ、デスクトップ設定、ソフトウェア配布など)にGPOを分離することで、問題発生時の特定が容易になり、変更管理も効率化されます。

また、GPOの命名規則を統一し、目的や対象、バージョンが一目でわかる命名方式(例: SEC-AllUsers-PasswordPolicy-v1)を採用することで、管理者間の混乱を防ぎます。

GPOの数は必要最小限に抑え、過剰な細分化を避けることで処理オーバーヘッドを削減し、ログオン時間への影響を最小化します。

組織単位(OU)構造に関しては、GPO適用を念頭に置いた論理的な設計が重要で、管理境界や共通ポリシーの適用範囲に基づいて階層を構築します。

大規模環境ではGPOのリンク先として上位のOUを活用し、継承を利用することでGPO管理の複雑さを軽減します。

ポリシー処理の遅延を防ぐため、不要な設定は「構成なし」ではなく完全に除外し、ループバック処理やスロートリガーのGPOは慎重に使用します。

定期的にGPOの監査を実施し、古くなったポリシーや未使用のポリシーを特定・整理することで、管理のオーバーヘッドを継続的に最適化します。

ローカルグループポリシーとの違い

ローカルグループポリシーとActive Directoryグループポリシーの最大の違いは、その適用範囲と管理方法にあります。

違いについて表で整理しました。

比較項目 ローカルグループポリシー Active Directoryグループポリシー
適用範囲 個々のコンピュータのみ ドメイン内の複数のコンピュータやユーザー
管理ツール gpedit.msc(ローカルグループポリシーエディタ) GPMC(グループポリシー管理コンソール)
設定の保存場所 ローカルコンピュータのファイルシステム Active Directoryデータベースとシステムボリューム(SYSVOL)
優先順位 ADポリシーよりも低い(LSDOUの「L」) ローカルポリシーよりも高い(LSDOU階層に従う)
設定オプションの範囲 限定的 広範囲(拡張可能なADMXテンプレート)
階層構造 なし あり(サイト、ドメイン、OUの階層構造)
フィルタリング機能 なし セキュリティフィルタリング、WMIフィルタリングをサポート
バージョン管理 なし あり(変更履歴、バックアップ/復元機能)
使用環境 ワークグループ環境またはスタンドアロンPC Active Directoryドメイン環境
レプリケーション なし あり(ドメインコントローラー間で自動レプリケーション)
中央管理 不可(各マシンで個別に設定) 可能(一元的に管理)
レポート機能 限定的 RSoP(Resultant Set of Policy)などの高度なレポート機能

ローカルグループポリシーは個々のコンピュータ内で完結し、そのマシンのみに適用される設定を管理します。

一方、Active Directoryグループポリシーはドメイン環境全体に対して中央集権的な管理を提供し、複数のコンピュータやユーザーに一貫した設定を適用できます。

管理ツールについても、ローカルポリシーは「gpedit.msc」という比較的シンプルなエディタで編集するのに対し、ADグループポリシーは「グループポリシー管理コンソール(GPMC)」という高度な機能を持つ管理ツールを使用します。

設定の保存場所もローカルグループポリシーはローカルコンピュータのファイルシステム内に保存されるのに対し、ADグループポリシーはActive Directoryデータベース(SYSVOL)に保存され、ドメインコントローラー間でレプリケーションされます。

適用の優先順位においては、ADグループポリシーがローカルポリシーより高い優先度を持ち、競合する設定がある場合はADポリシーが優先されます。

設定オプションの範囲もActive Directoryグループポリシーの方が豊富で、ADMXテンプレートの追加による拡張性も高くなっています。

ローカルポリシーはドメイン参加していないスタンドアロンのコンピュータや、特定のマシンだけに固有の設定を適用したい場合に適していますが、バージョン管理や変更履歴の追跡機能は限られています。

一方、ADグループポリシーは複数のバージョン管理、バックアップ/復元、レポート機能など、エンタープライズレベルの管理機能を備えています。

また、ローカルポリシーではOU構造に基づく階層的な適用や、セキュリティフィルタリング、WMIフィルターなどの高度なターゲティングオプションは利用できません。

ワークグループ環境ではローカルグループポリシーが唯一のオプションですが、ドメイン環境では通常、ローカルポリシーはADグループポリシーで対応できない例外的なケースにのみ使用されます。

まとめ

本記事では、Group Policyの基本概念から構成、代表的な使用例、適用プロセス、設計のベストプラクティス、そしてローカルグループポリシーとの違いについて解説しました。

組織のIT管理において、グループポリシー(GPO)は単なる設定ツールではなく、セキュリティの確保と運用効率の向上を実現するための重要な基盤です。

これを理解し、適切に運用できる管理者は、企業の情報管理を強化し、業務の安定性を確保できます。

特に、組織全体の統制を取るための「一括管理」の仕組みとしてGPOが果たす役割は大きく、手作業で個別の設定を行うのではなく、ドメイン全体に統一したルールを適用することでIT管理の負担を大幅に軽減できます。

また、セキュリティポリシーを確実に適用し、情報漏洩や不正アクセスを防ぐためにも欠かせません。

GPOを適切に活用することで、管理者の手間を減らしながら、ユーザーの操作環境を統一し、トラブルの発生を抑えることができます。

逆に、GPOを適切に設計・管理できなければ、意図しない動作やセキュリティの抜け穴を作りかねません。

GPOを学ぶことは、企業のITインフラを強固にし、安定した運用を実現するための重要なステップなのです。

ぜひ、実際の環境で活用しながら、知識と実践力を深めてみてください!